そんな内容のつぶやきが医療関係者にリツイートされて回ってきて、ハッとした。 これまで何度も何度も患者が「やめて」と声を上げているのに、一向になくならない迷惑行為。最悪の場合、患者がそちらに引きずられて標準治療(※)から離れ、命が左右されてしまうことも考えられる危険な”アドバイス”だ。 ※科学的根拠に基づいて決められている、その時点における最善の治療。日本の場合、保険がきく治療が標準治療となっている。 体調が良くならず地元の札幌に帰った2018年6月、高熱が出て精密検査を受けたところ、肝臓に複数転移した大腸がんと診断を受けた。ステージ4。がん専門病院で大腸切除、抗がん剤治療、2回の肝臓切除手術を受け、現在は検査でがんは見当たらない状態になった。 華月さんが今回、Twitterでつぶやいたのは、その治療中に周りからのアドバイスに苦しめられた自身の経験があったからだ。

新興宗教を信じる両親が宗教本や「がんに効く水」などを勧める

がんがわかった当初、自分の両親にはがんのことは伝えていなかった。 「私の両親は新興宗教にはまり込んでいて、そのせいで疎遠になっていました。病気のことを知らせれば、宗教がらみのいろいろなものを勧めてくるのはわかっていたので、あえて伏せていたんです」 最初の大腸切除手術を終えた後にLINEで伝えるとすぐに、がんについて書かれた教祖の本や、故・近藤誠氏が抗がん剤を否定する本、「がんに効く」という飲み物などを持って自宅に押しかけてきた。 「『お前が心配だ。抗がん剤治療はしないほうがいい』ととうとうと語られました。『これがいいから』と本や飲み物をドンと目の前に置かれました」 術後で両親に対抗する気力もなかった華月さんは、その場ではそのまま受け取った。さっと目を通して、本はすぐに捨てた。 がん患者になったばかりの華月さん自身、何が最善の治療なのかの見極めは必ずしもついていなかったと振り返る。 「当時は私自身、標準治療と民間療法の区別はまったくついていませんでした。テレビの情報番組で言われる『最先端治療』が最良の治療だと思っていて、病院の治療で治らなければ、それも考えなくちゃと思っていました」 「でもとりあえずはかかっているがん専門病院のお医者さんに任せようと思ったのです。両親に渡された宗教本は『魂』ががんにかかわると書いてあったのですぐ捨てました。近藤誠さんの本も、これを信じてしまったら私が今受けている治療は何なのだろうと疑問に思ったのですぐに捨てました」 飲み物は成分表を見て体に悪そうなものは入っていなそうだと判断し、少しだけ口をつけ、捨てた。 「ただ、1本1000円もするので、『もういらないからね』ということはしっかり伝えました」

「あなたは嫌かもしれないけど、私はこの治療法が好き」

両親からはその後も、同じ宗教の信者が経営する代替療法の治療院に連れて行かれ、手かざし療法を受けさせられたりした。治療院のスタッフからは「なんで抗がん剤なんてやったんだ。馬鹿じゃないのか」と一方的に叱られもした。 両親は、二度目の入院時にも「来ないで」と言っていたのに、訪ねてきては食べ物を置いていったり、マッサージをしたりしながら「抗がん剤はやってはいけない」と繰り返す。 「小さい頃お前に何もしてやれなかったから、してやりたいんだ」 「あなたはこういう治療法嫌かもしれないけど、お母さんは好きなんだ。だからね、してあげたいの」 親は患者である私の気持ちなど考えてもいない——。 だんだん精神的に追い詰められていった華月さんは、両親が来ても無視して顔を見ないようにすると、やっと両親は訪問をやめてくれた。 華月さん自身、若くしてがんになり、がん治療のことがよくわかっていたわけではない。 それでも何が自分にとって必要か理性的に判断できたのは、皮肉なことに幼い頃から、両親に信仰を押し付けられる経験をしてきたからだ。 「実母という常軌を逸するレベルで宗教にハマっていた人がいたから、論理的でないものを押し付けてくる人を疑う姿勢ができていたのだと思います」

絶えず迫ってくる民間療法の誘惑

抗がん剤治療では味覚の変化や気分の落ち込み、皮膚の色素沈着、しびれ、脱毛など副作用にも苦しめられた。 だが、そのがん専門病院では、治療を受けるたびに薬剤師が必ず症状を聞いてくれて、症状を和らげる治療につなげてくれた。治療に伴う苦しさを放置しない病院側の体制も、代替療法へ気持ちが向かうのを抑えてくれた。 「やはりステージ4まで進んだがんなので、標準治療を受けても治るとは限りません。『どうしたら治るのだろう』と民間療法を検索しました。同部屋だった患者さんが『ここにいても治らないから転院しようと思っている』と温熱療法を受けようとしていて、私も勧められました」 1回目の手術の後、患部に熱線を当ててがんを破壊するとうたう代替療法が近所で行われていることを知った。 「主治医に『これは私に効果があるでしょうか?』と聞いたら、『そのお金でアラスカでも旅行に行ったほうがいいよ』と苦笑しながら言われました」 当時はその主治医のバカにするような反応を冷たく思い、傷ついた。信頼が崩れ、一時は転院も考えた。 「長い付き合いになると、患者から繰り返しそんなことを聞かれて嫌な思いをしていたのだなと先生の気持ちも理解はできたのですが、その時は傷つきました。『この主治医に任せていて本当に大丈夫なのかな』とも一瞬思ったのですが、転院手続きの面倒などを考えると、とりあえず今の治療が終わってから判断しようと思い直しました」 周りの親しい人にも「これは効くだろうか?」と相談したが、「どうだろうねえ…」と一緒に悩み、転院に踏み切るまでの決め手は見つけられなかった。 「今思えば、周りも標準治療と民間療法の違いがわからなかったから、一緒に悩むしかできなかったのでしょう。でも、もし相談した時に『こっちのほうがいいんじゃない?』と民間療法を肯定したら私もそちらに流れたかもしれない。逆に頭ごなしに全否定されたら、反発して民間療法にしがみついたかもしれない。寄り添って一緒に考えてくれる人がいたのは幸運でした」

嫌なことは嫌と言っていい 写真家の幡野広志さんの発信に励まされて

治療中、親しい知人に向けてつぶやいていたSNSアカウントで、治療の経過を実況中継していた。自分の闘病経験を書き留める事で、誰かの役に立ちたかったからだ。 だが、治療内容を発信していると、フォロワーからも無責任な言葉が投げつけられた。 標準治療を受けているのに、「これが効くと聞いたので使ってみてください」と健康食品や代替療法を勧められる。「別の治療の方が良かったんじゃない?」と、絶えず別の選択肢の可能性を投げかけてくる。 「キノコとか『免疫の上がる食べ物』とかを紹介されて、そんなことを言われても困るなと困惑していました。気持ちは嬉しいけど、効くかもわからないその高いものを私に買えというのだろうかと」 もしがんに効果があるという食べ物を勧めるなら、自分でお金を払って差し入れてほしい、とも呼びかけた。 「これは受け売りで、自身のがん闘病について発信していた写真家の幡野広志さんがそんなことをTwitterで言っていたのです。当時、幡野さんがこうしたがん患者に対する無責任なアドバイスについて闘っているのを読んで影響を受けていました」 「幡野さんが怒ってツイートしているのを見て、『ああ、これは怒ってもいいことなんだ』と初めて気づきました。嫌なことは嫌と言っていいのだと。私はがんになるまで、人に嫌と言えない性格でした。それでストレスがすごく溜まっていたのにも気づき、はっきり嫌なことは嫌と言うようになりました」

身近な人ががんになった時に心がけてほしいこと

がん治療が一段落した2019年6月から、闘病生活についてもYoutubeで発信を始めた。 ただ、この動画の中で、華月さんが強調するのは「民間療法を否定しているわけではない」ということだ。「患者さんの選択を否定しないでください」ということも訴えている。 「民間療法、私は嫌なのですが、一緒に入院していたおばあちゃんとか、同部屋で温熱療法を勧めてきた人も民間療法を励みにして生きているところがありました。それ自体をすべて否定してはいけない、ということは宗教も同じだと思います」 「たとえ医学的な効果がないとしても、本人がそれを心の支えにして生きていくならそれはそれでいい。良くないのはそれにつけ込んで、お金を搾り取ろうとしたり、いらないと言っている人に勧めたりすることです。効くものであろうが、効かないものであろうが、自分が縋り付くものは自分で選んでいいはずです」

人によって求めることは違う 本人の気持ちに寄り添って

11月に入って、知り合いの家族ががんになり、それを打ち明けた知り合いのTwitterのアカウントに代替療法を勧めるリプライがついているのを見かけた。 そこで改めて投稿したのが冒頭の連続ツイートだ。 がんに効果のあると言われる食品などを勧めること、未承認の「最先端治療」を勧めることを、「効かなかった場合、あなた責任取れますか?」と考え直すよう求める内容だ。 「患者は自分の命を差し出して治療を試さなければなりません。とても孤独です。標準治療に限らず、どんな道を選んだとしても、自分の心が一番安らぐ方法を取るのが最良なのだと思います」 そんな華月さんが治療中に一番友人にしてもらって嬉しかったのは、患者として扱わず、それまでの華月さんと同じように接してくれたことだ。 「アニメの話とか、新しく出たゲームの話とか、変わらず普通にしてくれるのが嬉しかったのです。私が食べられるものを事前に聞いて、それを持ってきてくれて、なんてことない近況を話してただ帰る友達もいた。そういう普通のことをしてくれる人が一番ありがたかったですね」 周りは自分の不安を解消するために、患者に自分の思いを押し付けがちだ。だが、患者はがんになったからと言って、それまでの自分が変わるわけじゃない。 「自分が治療をしていることを忘れられる瞬間があったのが良かった。もちろんがん患者として労ってほしいという人もいるでしょう。人によってやってほしいことは違うので、その人に聞いて、寄り添ってほしいのです」

若い自分ががん治療について発信する意味

治療は2019年9月に終え、今も3ヶ月に1度の経過観察は欠かさない。主治医からはがんが見当たらない状態(寛解)が5年続くまで治ったとは言えないと釘を刺されている。 最近では自分や身内ががんになった視聴者らから「こういう時、どうしたらいい?」などと相談を受けることも増えた。そして、今回のツイートがバズったことにも、驚きと手応えを感じている。 「若いとがんについて聞ける人が周りになかなかいないのです。民間療法やがんに関する食べ物の本などが売れ続けている限り、誰か一人が声をあげたから変わることではないかもしれませんが、たまにでも私が発信し続ける意味はあるのかなと思います」 そして、がん経験者として一番伝えたいことはこれだ。 「自分や周りの人ががんになった時に慌てないように、若い人でも普段から少しでも知るきっかけを増やしてほしい。そして、当事者が自分が疑問に思う治療に手を出していたとしても、頭ごなしに否定するのではなく、まずは相手の話を聞いてあげてほしいと思います」 これからもがんサバイバーのVチューバーとして、積極的に発信していくつもりだ。

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